ヨーロッパでは12世紀ごろからベネチアのガラス工芸が急速に発展しベネチアンガラスとして数百年にわたる隆盛のなかに、色彩豊かな種々の装飾的技法を生み出し、その影響は北欧からボヘミアまで、ヨーロッパ全域に及んだ。ヨーロッパと異なって、平安時代以降の中断のために、日本では生活のなかにガラスの歴史のにおいが薄く、現代でもなお、陶磁器、漆器に比べて家庭内でのガラスの地位はけっして高いものではない。 2. ガラスの一般的な特徴多くのガラスには、(1)透明で等方性、(2)硬くもろい、(3)水に溶けず、変質しない、(4)耐熱性であるが温度の急変に弱い、(5)電気の絶縁体、(6)成形、加工しやすい、(7)組成に化学量論的制約がない、などの性質があるから、窓ガラス、瓶、レンズ、ファイバー、蛍光灯、テレビのブラウン管、コーヒーサイフォン、ビーズなど、さまざまな形となって、あらゆる方面で使われている。このなかで特筆しなければならないのは(6)の性質で、一見して飴(あめ)細工を思わせるが、実はそれよりもはるかに自由である。その秘密は、同じ固体でも結晶と異なり融点がないから、液体―過冷却液体―ガラスの間で、すべての性質が温度変化に伴って滑らかに連続的に変わる。物質の流れにくさを測る粘性率(ポイズ、記号はP)が、溶融温度の100Pくらいから常温では1018Pまで極端に変わるから、その中間領域でいろいろな成形が可能である。また(7) の性質のため、条件さえ適合すれば、ほとんどすべての元素をガラスとして取り込む特性があるので、原子炉の放射性廃棄物なども適当な化学組成に変えて安定なガラスにしてしまえる。以上のように、ガラスはその歴史も古く、また日常生活はもとより科学、技術の方面まで広く利用されているにもかかわらず、その学問的な本質については不明な点も多く、興味ある物質といえる。 3. 種類と性質日常使われている主要なガラスの化学組成とその特性をみてみると、一般の傾向として二酸化ケイ素SiO2、酸化アルミニウムAl2O3の含有率の大きいものは使用温度限界が高くなるが、酸化ナトリウムNa2O、酸化鉛PbOの多いものは逆に低くなる。ガラスの粘度が1013Pになる温度(徐冷点)が高いほど使用温度限界も高い。温度の急変に対しては、熱膨張係数が低いガラスほど強いから、一般のガラスが1000万分の1単位で90付近であるのに対して、フラスコやコーヒーサイフォンなどのガラスでは30近いものが多い。硬さはほぼ使用温度限界の値に対応しているが、機械的強度は微小の傷その他の要因があって簡単には表されない。ガラスは水や酸・アルカリに対してきわめて強いが、薬品瓶やアンプルなどではわずかな溶解量が問題となるので、化学的耐久性として測定され、溶出量の少ないものほど耐久性が大きい。
4. 機械的強度ガラスの破壊強度は、その硬さに比較すると異常に低いだけでなく、測定値のばらつきも大きい。図Aに示す通常のガラスbでは1平方センチメートル当り 100~3000キログラム、つまり30倍くらいの変動がみられる。1平方センチメートル当り700キログラム付近の印は通常のガラスの実用的強度である。しかし強化ガラスcやdのガラスはそれよりはるかに強く、理論強度の1平方センチメートル当り20万キログラムに近いものもあり、直径5マイクロメートルのガラス繊維の強度はスチールよりずっと強い。ガラスの強度にこのような極端な開きが出るのは、(1)ガラスがきわめて硬い物質であって、そのため、(2)表面の傷によって強度が極度に低下するためである。この傷は深さ1マイクロメートルくらいのものが大半で、この程度のものは手の指で軽く触れても容易に発生する。図Aのbはこのような傷を無数にもつ通常のガラスで、まったく傷がないと仮定した理論強度に比べ、強度は100分の1から1000分の 1くらいに低下している。さらに、(1)表面の傷、(2)なまし不良などによる残留応力、(3)大気中の高い湿度、とが共存すると、ガラス製品が使用中または保存中に突然割れることがある。これは、湿気による傷の内面に対する侵食が、残留している引張り応力によって加速されるためで、応力集中が大きいほど侵食が進むという悪循環によって傷の先端がしだいに鋭くなり、応力集中が限界に達した時点で破壊する。この遅れ破壊とよばれる現象は高温多湿の日本などでは注意する必要がある。 5. ガラスの構造固体のもっとも安定な状態は原子または分子が規則的に整然と配列した結晶で、それがエネルギーのもっとも低い平衡状態であることを考えると、ガラスでは配列の規則性が低く、エネルギーもやや高い非平衡状態にあることになる。図Bに、実用ガラスの主成分である二酸化ケイ素が単独で結晶(クリストバライト)になった場合と、ガラス(石英ガラス)になった場合の原子配列(構造)の相違を二次元的に図示した。両者とも共通の構造単位をもっているから、直径7オングストローム(Å)程度の領域では両者間に差はみいだせないが、30Åほどの領域を比較すれば差がみられる。ただし石英ガラスの構造図にも異論があり、このような原子配列が連続しているのではなく、結晶と似た構造の20Åくらいの微小領域が散在しているとの説も、最近では2、3にとどまらない。以上は二酸化ケイ素単一成分系のガラスの構造であるが、酸化ナトリウム、酸化カルシウムなどを含む多成分系ガラスに関しては、その構造に対してさらに不確定な要素が増え、厳密に統一された結論はない。ただし、ナトリウムなどの陽イオンの存在点が古典的構造論の示すような無規則なものではなくて、結晶構造に準じた配列をとっていることが実証されている。
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